幾何学

ピザの定理

ピザの定理(Pizza theorem)と呼ばれる,円板の面積を等分割する方法に関する定理が知られています.本記事ではピザの定理の主張とその証明を紹介します.

ピザの定理

ピザの定理の主張は,次のとおりです.

定理1(ピザの定理)

半径 $1$ の円 $C$ と,その内側に含まれる点 $P$ を考える.$l_1$ を $P$ を通る直線とし,$h_1$ を $P$ を通り $l_1$ と垂直な直線とする.さらに $\theta$ を $0 \leq \theta \leq \pi/2$ を満たす実数とし,$l_1,\ h_1$ を $P$ を中心に $\theta$ (rad)反時計回りに回転させて移る直線をそれぞれ $l_2,\ h_2$ とする.

このとき $l_1,l_2,C$ で囲まれる領域の面積と $h_1,h_2,C$ で囲まれる領域の面積の和を $S(\theta)$とすると, $S(\theta)=2\theta$ が成り立つ.

$S(\theta)$(橙色の領域の面積)は $2\theta$ である.

ピザの定理の証明

証明には次の補題を用います.

補題2

円 $C$, 点 $P$ および 直線 $l_1,\ h_1$ を定理1のように定める.また,以下の図のように $C$ と $l_1$ の共有点を $X,\ Y$,$C$ と $h_1$ の共有点を $Z,\ W$ と名づける.

このとき,$$PX^2+PY^2+PZ^2+PW^2=4$$が成り立つ.

一旦この補題を認めて,定理1を証明しましょう.

定理1の証明.

円 $C$ の内側の点 $P$ および $P$ を通る直線 $l_1$ を任意にとり,固定する.以下の図のように $C$ と $l_2$ の共有点を $X(\theta),\ Y(\theta)$,$C$ と $h_2$ の共有点を $Z(\theta),\ W(\theta)$ と名づける.いま,極方程式の面積公式から$$\begin{aligned}S(\theta)=&\frac{1}{2}\int_0^\theta  \{PX(\theta)^2+PY(\theta)^2\\&\quad+PZ(\theta)^2+PW(\theta)^2\}d\theta\end{aligned}$$が成り立つ.ここで補題2より右辺の被積分関数の値は $\theta$ に依存せず $4$ なので,$$\begin{aligned}S(\theta)&=\frac{1}{2}\int_0^\theta  4\ d\theta \\&=2\theta\end{aligned}$$となって,定理1が示せる.

補題2の証明

最後に補題2を証明します.2通りの方法で証明してみましょう.

座標平面を用いた証明

証明.

以下の図のように,円の中心を$(0,0)$, $P$ の座標を $(s,t)$ とし,$l_1$ が $y$ 軸に直交,$h_1$ が $x$ 軸に直交するように座標を設定する.回転または裏返しを考えることにより,$$\begin{aligned}&0 \leq s \leq 1,\\&0 \leq t \leq 1,\\ &0 \leq s^2 + t^2 \leq 1 \end{aligned}$$ が成り立つと仮定しても一般性を失わないのでそうする.点 $X,\ Y,\ Z,\ W$ を図のように定める.このとき,$$\begin{aligned} &PX = \sqrt{1-t^2}-s \\ &PY = \sqrt{1-t^2}+s \\&PZ = \sqrt{1-s^2}-t \\ &PW = \sqrt{1-s^2}+t\end{aligned}$$だから,それぞれ $2$ 乗して辺々足すことにより$$PX^2+PY^2+PZ^2+PW^2=4$$を得る.

初等幾何的な証明

証明.

円 $C$ の中心を $O$ とし, 直線 $ZO$ と円 $C$ の共有点のうち $Z$ と異なるものを $Q$ とする.まず,$XW = YQ$ であることを示そう.

$XW = YQ$ の証明

$\angle XYW =\angle YXQ$ をいえば十分.

円周角の定理より,$\angle XYW = \angle XZW$, $\angle YXQ = \angle YZQ$ である.よってあとは $\angle XZW =\angle YZQ$ をいえばよい.いま $\angle ZYQ = \angle ZPX = \pi/2$ であり,また円周角の定理から $\angle ZQY = \angle ZXY$ である.したがって三角形 $ZQY$ と三角形 $ZXP$ は相似であることが分かる.よって $\angle XYW =\angle YXQ$ である.

$PX^2+PY^2+PZ^2+PW^2=4$ の証明

三角形 $ZYP$,三角形 $XPW$ は直角三角形だから,三平方の定理を用いて$$PX^2+PY^2+PZ^2+PW^2 =YZ^2 + XW^2 $$である.$XW = YQ$ だったから右辺は $YZ^2+YQ^2$ に等しい.さらに三角形 $ZYQ$ は直角三角形だから三平方の定理より $YZ^2+YQ^2=ZQ^2=4$ である.以上より$$PX^2+PY^2+PZ^2+PW^2 =4 $$ が分かった.