解析学

アルファ平均

本記事では$\alpha$-平均という,相加・相乗・調和平均を一般化した概念を紹介します.また,その性質から有名な相加・相乗・調和平均の関係式が導かれることを確かめます.

$\alpha$-平均の定義とその例

定義

定義 1

$n \in \mathbb{N}_{\geq 2},\ h:\mathbb{R}_{>0} \to \mathbb{R}$ に対し,$m_h:{\mathbb{R}_{>0}}^n \to \mathbb{R}_{>0}$を$$\begin{align}&m_h (x_1,\dots,x_n) \\ &= h^{-1}\Bigl(\frac{1}{n}(h(x_1)+\dots+h(x_n))\Bigr) \end{align}$$と定める.これが well-defined となるとき,$m_h$ を ($n$ 次の) $h$-平均という.

この記事では詳細を省きますが,scale free と呼ばれる次の性質:$$\begin{gather}\forall x_1,\dots,x_n \in \mathbb{R}_{>0},\ \forall c \in \mathbb{R},\ \\ m_h(cx_1,\dots,cx_n)=cm_h(x_1,\dots,x_n) \end{gather}$$をみたす関数 $h$ は アファイン変換(定数をかける,または足すこと)による違いを除いて$h(x)=x^q\ (q \neq 0)$ または $h(x) = \log{x}$ に限られることが知られています.そこで,$\alpha$-関数と呼ばれるものを次のように定めます.

定義 2

$\alpha \in \mathbb{R}$ に対し,$\phi_\alpha:\mathbb{R}_{>0} \to \mathbb{R}$ を$$\phi_\alpha(x):=\begin{cases}x^{\frac{1-\alpha}{2}} & (\alpha \neq 1) \\ \log{x} & (\alpha=1) \end{cases}$$と定め,これを $\alpha$-関数とよぶ.

この $\alpha$-関数を用いて,$\alpha$-平均は次のように定義されます.

定義 3

$m_\alpha:=m_{\phi_\alpha}$と書くことにし,これを $\alpha$-平均という.

これで表題の $\alpha$-平均を定義することができました.次に具体例を見てみましょう.

具体例

$\alpha=-1$ のとき  $$m_{-1}(x_1,\dots,x_n)=\frac{1}{n}(x_1+\dots+x_n)$$

$\alpha=1$ のとき $$\begin{eqnarray}m_{1}(x_1,\dots,x_n)&=& \exp\left(\frac{1}{n}(\log{x_1}+\dots+\log{x_n})\right) \\ &=&  (x_1\dots x_n)^\frac{1}{n}\end{eqnarray}$$
$\alpha=3$ のとき $$m_{3}(x_1,\dots,x_n)=n \cdot \left(\frac{1}{x_1}+\dots+\frac{1}{x_n}\right)^{-1}$$

となり,上から順に相加平均・相乗平均・調和平均となることが分かります.

$\alpha$-平均の性質

$\alpha$-平均に関して次のことが成り立ちます.

定理 4

$m_\alpha(x_1,\dots,x_n)$は $\alpha$ に関して単調減少連続関数である.

証明

$x_1,\dots,x_n \in \mathbb{R}_{>0}$ を任意に取る.$q:=\frac{1-\alpha}{2}$とおくと,$$m_\alpha(x_1,\dots,x_n)=\begin{cases} \left(\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}\right)^\frac{1}{q} & (q \neq 0) \\ (x_1\dots x_n)^\frac{1}{n} & (q=0) \end{cases}$$と書けるのでこれが $q$ に関して単調増加連続関数であることを示せば良い.まず連続性を示す.$q = 0$ での連続性を示せば十分である.$$\begin{align}&\lim_{q \to 0}  \log{\left(\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}\right)^\frac{1}{q}} \\ &=  \lim_{q \to 0}  \frac{\log(x_1^q+\dots+x_n^q)-\log{n}}{q}\end{align}$$だが,ここでロピタルの定理より右辺は$$\begin{align}&\lim_{q \to 0}  \frac{\log(x_1^q+\dots+x_n^q)-\log{n}}{q} \\ &= \lim_{q \to 0} \frac{x_1^q \log{x_1}+\dots+x_n^q \log{x_n}}{x_1^q+\dots+x_n^q} \\&= \log {(x_1 \dots x_n)^\frac{1}{n}}\end{align}$$となる.従って$$\lim_{q \to 0}\left(\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}\right)^\frac{1}{q} =(x_1\dots x_n)^\frac{1}{n}$$ が分かり,連続性が示せた.次に単調増加性を示す.$$f(q):=\log{\left(\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}\right)^\frac{1}{q}}$$と定め,$\frac{\partial}{\partial q}f(q) \geq 0 \ (q \in \mathbb{R} \setminus \{0\})$ をいえばよい.計算により$$\begin{align}\frac{\partial}{\partial q}f(q) = &\frac{n}{q^2(x_1^q+\dots+x_n^q)} \\ &\quad \Bigl(\frac{x_1^q \log{x_1^q}+\dots+x_n^q \log{x_n^q}}{n} \\  &\quad -\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}\log{\frac{x_1^q+\dots+x_n^q}{n}} \Bigr)\end{align}$$となるが, $t\log{t}\ (t > 0)$ の凸性とJensenの不等式から括弧内は非負であることが分かる.よって$f'(q) \geq 0$がいえ,単調増加性が示せた.□

この定理と上でみた $3$ つの例から「調和平均 $\leq$ 相乗平均 $\leq$ 相加平均」という有名な関係式が従います.また,証明中でJensenの不等式の等号成立条件を考えることで,これらの平均が等しくなる必要十分条件が $x_1=x_2=\dots=x_n$ であることも分かります.