解析学

部分分数分解の可能性と計算例

有理関数の不定積分を計算したい場合などに用いる手法として,部分分数分解があります.有理関数は必ず部分分数分解できることが知られていますが,このことは多くの高校の参考書では「暗黙の了解」となっており,詳しい説明はありません.そこで本記事では,部分分数分解が可能であることの証明と,実際の計算例を紹介します.

部分分数分解が可能であることの証明

有理関数と部分分数分解

まず用語を確認しておきましょう.複素関数 $f(z)$ が有理関数であるとは,多項式関数 $P(z),Q(z)$ で $f(z)=Q(z)/P(z)$ の形で表されることをいいます.また,部分分数分解とは有理関数を $1/(z-c)^n$ や $z^n$ などの一次結合で表すことを指します.例えば,$$\begin{aligned}&\frac{z^4+1}{z(z-1)^2}\\&=\frac{2}{(z-1)^2}+\frac{2}{z-1}+\frac{1}{z}+2+z\end{aligned}\tag{1}\label{eq1}$$のように書き直すことがそうです.

証明

定理 1

有理関数は部分分数分解できる.

証明

$f(z)=Q(z)/P(z)$ とする.多項式の割り算を考えることで一般性を失うことなく $\deg{Q(z)}<\deg{P(z)}$としてよいのでそうする.但しここで $\deg{P(z)}$ は $P(z)$ の次数を表すものとする.$f(z)$ の $\mathbb{C}$ における極を $c_1,\dots,c_n$ とし,それぞれの点の周りでローラン展開した主要部を$$\begin{aligned}&\phi_j(z)\\&:=\frac{a^{(j)}_{-p_j}}{(z-c_j)^{p_j}}+\dots+\frac{a^{(j)}_{-1}}{z-c_j}\quad (1\leq j \leq n)\end{aligned}$$と書くことする.また,$$g(z):=f(z)-\displaystyle \sum_{j=1}^{n}\phi_j(z)$$と定める.任意の $z \in \mathbb{C}$ に対して $g(z)=0$ であることを示そう.いま $g(z)$ はその定義から $\mathbb{C}$ 上正則な関数である.さらに $|z| \to \infty$ としたとき,$\deg{Q(z)}<\deg{P(z)}$ より $f(z) \to 0$ となり,また $\phi_j(z) \to 0$ である.したがって$$\begin{aligned}&\lim_{|z| \to \infty} g(z)\\&=\lim_{|z| \to \infty}\left\{f(z)-\sum_{j=1}^n \phi_j(z)\right\}\\&=0\end{aligned}$$だからリウビルの定理より $g(z)=0$ を得る.このことより $f(z)=\sum_{j=1}^n \phi_j(z)$ と部分分数分解されることが示された.

部分分数分解の例

上の証明から,有理関数はそれぞれの極でのローラン展開の主要部を足し合わせたものとして分解されることが分かりました.このことを踏まえて部分分数分解の計算をしてみましょう.

例 2

等式\eqref{eq1}を確かめよ.

$$\begin{aligned}&f(z)\\&:=\frac{z^4+1}{z(z-1)^2}\\&=\frac{A}{(z-1)^2}+\frac{B}{z-1}+\frac{C}{z}+D+Ez\end{aligned}$$とおく.まず$$f(z)=2+z+\frac{3z^2-2z+1}{z(z-1)^2}$$だから $D=2,E=1$ である.$C$ は $f(z)$ の $z=0$ での留数に等しいから$$C=\lim_{z\to 0} zf(z)=1$$と求まる.さらに $z=1$ のまわりで$$\begin{aligned}&(z-1)^2f(z)\\&=\frac{(1+(z-1))^4+1}{1+(z-1)}\\&=\begin{aligned}&(2+4(z-1)+\dots)\\&\cdot(1-(z-1)+\dots)\end{aligned}\\&=2+2(z-1)+\dots\end{aligned}$$となることより $A=B=2$ である.以上をまとめて\eqref{eq1}の分解を得る.